【バレエ教師インタビュー】生徒さんに伝え続ける「バレエを通して身につけて欲しい力」とは?


 
 

本気で取り組む生徒さんにだけ伝える「日本と世界の厳しさの違い」

 
 
今回は、バレエ教室を主宰する金澤志保先生のインタビュー記事です。
先生は20年以上教室を続けられ、海外にも生徒さんを多数送り出しておられます。
 
 

■金澤志保先生プロフィールご紹介

 

 
 
金澤志保バレエスタジオ主催
 
世界各国のバレエ団に生徒を輩出。世界トップクラスのダンサーとなる。
(代表者:オーストラリアバレエ プリンシパル近藤亜香、カナダナショナルバレエ ファーストソリスト石原古都、他多数)
 
また、ジャズダンサー、新体操選手も指導をしている生徒が各分で活躍、好成績を出す。
 
ANET 愛知県芸術文化協会会員
 
 

・本気で取り組む生徒さんにだけ伝える「日本と世界の厳しさの違い」 
・踊るスキルより先に磨くべき「人としての力」
・望む進路へ進むために欠かせない「親御さんの関わり方」
・バレエ経験の全てが生徒さんの「進路」につながる

 
 
さまざまな角度から伺いました。先生ならではの視点のお話を、ぜひお読みください。
 
 
添田「先生は理学療法の現場を見てきた経験をお持ちで、身体のつくりなどを学んで指導に生かしていらっしゃるとのことですね。」
 
金澤先生「5年間ほどリハビリの助手の仕事をしていました。私はバレエをやっていきたかったので理学療法士や健康療法士の道には進まなかったのですが、けがをした人の回復の指導についてであるとか、リハビリなど“筋力強化”についても間近で見てきましたし、この勉強期間は私にとってとても大切な期間でした。」
 
添田「バレエと身体のつくりのことは切っても切り離せないですものね。ちなみに、先生のお教室はお一人ではなく協力する助手の先生方もいらっしゃるとか。教室で働く先生は何人いらっしゃいますか?」
 
金澤先生「大人専門、幼児専門の先生と専門性をもって、常時6人ぐらいでやっています。」
 
添田「めいめい自分の得意な学年の生徒さんを教えているという事でしょうか。伝え方のコツがありますものね、それぞれの年齢に合わせて。」
 
金澤先生「うちは、ありがたいことに、小さい子たちを任せられる、保育士の資格をもつ先生が4人いて、それが売りのひとつです。おむつをつけている子がいたらおむつも替えてくれるんですよ。子どもの扱いが上手な先生がいます。私は“怖い先生”です。」
 
添田「怖い先生ですか。笑。金澤先生がある意味お父さん役なんですね。」
 
金澤先生「怖いですよ〜。厳しいといったらいいのかな。理不尽なのは嫌なのですが、なあなあなのも違うと思うので。バレエは厳しい世界ですし、本気で進みたい子にはそれを伝えるのも仕事なので。」
 
添田「そうですよね。海外は日本にいるよりもっと厳しいですからね。」
 
金澤先生「いつも言っているのですが、海外は先生たちがすごく“ニコニコ、ヨシヨシ”ってして親身にはしてくれるのですが、レベルが満たなかったり素行が悪かったら“じゃあ日本に帰っていいから”と言われるんだよって。そこを勘違いしたらダメだよと伝えています。先生の態度が柔らかいから優しいというわけではないから、自分がどうしたいか、しっかりしなさいと。」
 
添田「まんべんなくみんなを一緒に見てくれる日本の先生と、見本になる子に集中して教えて、“みんなついていきなさい”という海外の先生は指導方針も違いますものね。」
 
金澤先生「海外と日本では“厳しい”の意味が違いますね。日本だと口調が厳しいだけで厳しいと思われがちですが、そうではないので。私たちも専科の生徒さんたちには本当に厳しくします。本来自主的に取り組まなければなりませんし、日本ほど厳しそうに見えて甘やかしてくれるところはないですからね。
 
やっぱり生徒はかわいいですし、何かあっても拾っていくし持ち上げるし、手を出してしまいたくなります。でも、海外に行ったらまるで違う。生徒が日本にいるうちに、それをとことん話してから海外に送り出しますね。」
 
添田「金澤先生の方針は、なるべく日本でもそういう経験をさせて、厳しくてもきちっと伝えるということですね。他に、コンクールの舞台に上がる生徒さんの選出はどのようにされていますか。」
 
金澤先生「専科に上がってからは“出たい”と手を挙げた子にだけ上がってもらいます。基本、無理強いはしません。もちろん、専科に上がる前はある程度頑張らなければ上がれませんが。うちの場合は、コンクール出場だけを目的にしていないので、一週間の練習の中にコンクール練習を個別に組み込んでいるわけではないんです。コンクールが近くなると土日などの空き時間を使って練習していますね。」
 
添田「なるほど。常に自主性を大切にしているんですね。」
 
 

踊るスキルより先に磨くべき「人としての力」

 
 
金澤先生「生徒さんには、常に意味を持って厳しくします。やっぱり主役を踊るにしても、“周りの人がいてくれて踊れるんだ”とわかっていなければ、主役を踊る必要がないですから。親御さんにしろサポートしてくれる人にしろ、支えてくれている実感がなければ、ですね。
生徒さんに伝えるとき、“主役を踊る時に、コールドバレエが一人もいない主役って何だろう”という話をします。
 
“○○ちゃんの後ろで踊るのが嫌だ”というダンサーにはならずに、“○○ちゃんの後ろで、私たち踊れるんだ”って思ってもらえるような生活をしないといけませんよね。そうでなければ出来栄えも変わりますし、作品としても違ってくるし、人としての部分が踊りににじみ出てくる。それはいつも伝えます。海外を目指しているかどうかでなく、小さな子でも、ある程度の役が付く子には言っていますね。」
 
 

 
 
添田「だいたい何歳ぐらいからそういう姿は見られますか。」
 
金澤先生「5年生ぐらいですね。うちは基本的には小学生はコンクールには出しません。たまに出る時期を見誤らない方がいい子がいるときは出すのですが、まずまず声はかけないですね。コンクールに出るにしても、それよりも先に学ぶべき重要なことがあるからです。
 
それで、だんだん頭角を現してくるのが小学校5年生頃です。毎年春にやる「おさらい会」で、5年生からはバリエーションを踊れるようになるのですが、その時“私はこの踊りが踊れる”と考えてもらうんです。そのあたりから差が付いてきますね。」
 
添田「子どもだから素直に反応しますよね。そんな中、上手な子は“私上手だから”ということで、意識する子が出てきませんか。」
 
金澤先生「人に当たる子は、腰を折りますけどね。」
 
添田「腰を折る!すごいですね。高学年ぐらいになるとそういった気持ちが出てきやすい年齢ですよね。私上手だもん、という。」
 
金澤先生「本人のやらかし方によるのですが、あまりにも目に余ると、説教部屋に呼ばれるんです。一人で呼ばれたときはたいていお説教です。さっきも言いましたが、上手になって真ん中を取ったとしても、真ん中を取った時に、“周りの人はあなたのことをすごく尊敬してサポートをしようとしてくれているよね。周りがいてくれるから自分が真ん中で花形を踊れるんだよね。もしそこを馬鹿にするのであれば、あなたは真ん中を踊れないよ”という話をします。みんな進み具合が違うだけであって、みんなだって上手になろうとするし、“そこを人として尊敬できないなら、バレエには向いていないよ”と伝えます。とても大切なことです。“強さ”は必要で、自分の中に強さを持っておくことが大切です。その強さを人に当てる必要はないんですよね。」
 
添田「”人に当てる必要はない“格言ですね。バレエを通して、人としての器を身につけてもらうということでしょうか。」
 
金澤先生「そうですね。でも、バレエだけでは身につかないこともたくさんあるんですよ」
 
添田「例えばどんなことですか?」
 
金澤先生「例えば、バレエ以外のものに触れることで養われる感性があります。うちのバレエスタジオは、20年前一緒に、ジャズダンスのスタジオと共同経営で始めたんです。今では経営が別々ですが、そこのジャズダンス教室の20周年公演があって、うちの子たちも出たのですが、やっぱり違うジャンルの人の進め方だったり、リハーサルの仕方だったり、考え方だとか色々勉強させていただき、ジャズの良さが分かりバレエの良さに気づくというのは大いにあります。
 
バレエみたいな動きがあるけれども違う側面から攻めてきているのと、バレエの側面から攻めていくのでは、出来上がり方とか積み上げ方がそれぞれ違って、ジャズダンスの良さ、バレエの良さっていうのを学ぶことになるんです。
 
お芝居もそうですよね。バレエもストーリーがあって、お芝居の一環として“間”が合っているというのも本当のお芝居を通して学ぶことだと思うんです。
 
バレエ以外のものを見れば、いろんなものが膨らんでつながるというか。なので、ぜひともいろんなことをしてほしいです。子どもたちには絵を見たりとか、映画見たりとか、いろんな芸術などに触れる時間を取ってねと言っているんですよ。」
 
 

 
 

望む進路へ進むために欠かせない「親御さんの関わり方」

 
 
添田「生徒さんの気持ちを尊重して、人間力の磨き方を教える。先生の丁寧なご指導ぶりが伝わってきました。生徒さんの親御さんとの関係性も重要かと思うのですが、先生と親御さんとの関係性についてはいかがですか。」
 
金澤先生「ありがたいことに、生徒さんの親御さん達は、全面的に私へお任せしてくださるんです。“信頼しているのでお願いします”と言ってくださいます。
 
レッスンの時は、親子関係のように率直にその子の改善点を伝えるのですが、厳しすぎるなどの意見を仰る親御さんはまずいません。私が意図した意味を受け取っていただいて、生徒さんに向けて問いただして言ってくださるような親御さんたちなので、こちら側も安心して色々な指導ができます。
 
私が思うに、お子さんの伸びを後押しする親御さんは、“親のやりたいように娘をさせる”のではなくて、娘がやりたいと感じたこと、信じたことをプッシュアップしています。おかげで長くいい関係を築かせていただいていますね。」
 
添田「やはり親御さんの関わり方が大事なのですね。」
 
金澤先生「とても大切です。信頼関係が必要です。レッスンはきついですから、反抗期の時にもお子さんをフォローできる親御さんであれば関係が崩れません。大なり小なり、誰にでも反抗期があるので、指導者としてはどうしてもスムーズにいかないこともあるのですが、親御さんとうまく連携ができていれば大きな問題になることはないですね。」
 
添田「生徒さんとの関係性は親御さんの考え方で変わるのですね。先生を立てるという事をちゃんとわきまえていらっしゃるというか。」
 
金澤先生「今でこそ親御さんの方が私よりも若いことが多いですが、指導を始めた頃は私よりも親御さんの方が年上ということがほとんどでした。“母親”としては私の方が後輩だったりするのですが、バレエに関して言えば、“私は全くバレエはわからないので、先生にお任せします”といつも言ってくださっていましたね。本当にありがたいことです。」
 
添田「ご自身がバレエの経験がないという親御さんが多いですか?」
 
金澤先生「そうです。バレエをやっていない方がほとんどですね。」
 
添田「適材適所ではないですけれど、お母様がちゃんと“どん”と構えて、自分はバレエのことに関しては専門外だから、先生にお任せして、メンタル面だったりとかいろんな生活の中のことはしっかりとサポートされるということですね。」
 
金澤先生「おかげ様で縁が切れないんですよ。親御さんに協力していただけるおかげで、生徒さんのことを考えて、やりたいようにやらせていただいたなと今になって思いますね。」
 
 

 
 

バレエ経験の全てが生徒さんの「進路」へつながる

 
 
添田「これまで色々な教室の先生と生徒さんの話を聞いてきましたが、生徒さん同士の関係性づくりがうまくいかず辞めていくなど、関係性造りに苦労されている先生方も少なくは無いと思いますが。」
 
金澤先生「もちろん、途中で教室を辞めたりバレエ自体を辞められる生徒さんもいらっしゃいます。最初の頃は一人辞める生徒さんがいればいたたまれなかったのですが、よくよく考えてみると、そのままではその子たちにとっても幸せなことではないかもしれない。そう思えるまでに時間がかかりましたが、それが変わりました。子どもはみんなかわいいんですよ。思い入れがそれぞれにありますから、もったいない想いがないわけではありませんが、その子が最終的にその道が良ければ、それがベストと思うようになりました。」
 
添田「本人にとっての答えが、ここ(バレエ体験)を通して見つかるということもありそうですね。私自身も普段から親御さんと会話していますが、 “我が子にあるものはバレエだけ。バレエしかやってこなかったから、そこで夢が叶わなかったらおしまい。”と思っている方が非常に多いんです。実際には社会に活かせる、と思うのですが。」
 
金澤先生「そうですね。うまくいかなくなったら、手放してしまうという。続けるならバレエで夢をつかむか、それ以外の道で続けていくか。いくつも道があるのでうまく付き合っていけばいいのですが、思うようにいかないこともあります。仕事になれば一番いいんでしょうけれど、正直この日本で、バレエの経験を生かして食べていくとなると狭き門です。私は、生徒さんがバレエを続けていくことで、(踊りの技術以外にも)身につく力がたくさんあると強く思っているんですよ。」
 
添田「生徒さんの進路について、印象に残っていることはありますか。」
 
金澤先生「ある生徒さんが、ここ一年ぐらい、引退すると言って舞台から離れていたんですが、この間、公演で復活したんです。そうしたら、舞台を離れる前よりもすごく踊りが良くなっていて。ちゃんと本気でぶつかってきて、今、仕事をいただけるようになったんです。不思議ですよね。
 
彼もとても苦労してきた一人なんですが、“これのためにいろんなことがあったんだね”って今は話せるようになりました。(今までの経験は)最終的にここにたどり着くためのことだったんだねと。」
 
添田「うまくいきだしたときに、うまくいかなかった時のことを振り返ったら、“ああ、だからダメだったんだね”って気づくというか。」
 
金澤先生「その時は見えていないのにですね。私も見えていないし、本人も見えていないことが後になって見えてくるんです。
 
添田「すべてがつながっていますね。やっぱり“痛いこと”を経験してしてそこで学ぶことが大きいのかな。辛い思いをしてそこから見えた景色で成長しますものね。」
 
金澤先生「本当にそうですね。」
 
 

生徒が夢を叶えること=自分の夢が叶うこと

 
 
添田「そういえば、先生自身は海外で踊った経験はありましたか。」
 
金澤先生「私は海外で踊っていないんです。だから自分の夢を、生徒たちがどんどん叶えてくれるという状態です。」
 
添田「ああ〜それは楽しいですね。」
 
金澤先生「すごく楽しいですよ。本当にありがたい。生徒さんを海外に送り出した最初の頃なんて手探りでしたから……。生徒さんが海外へ出て、(その姿から)逆に教えてもらっているような感じもありました。やりたかったことを全部生徒たちが自分で叶えてくれているんです。」
 
添田「それはすごいですね。」
 
金澤先生「自分は踊りの側には才能がなかったと思っているんです。踊るのは好きですよ。役をいただければ飛んでいたりしていたのですが、小さな時から教えるのが好きな子どもでした。先生の助手に入るのが結構好きで。私が大学生ぐらいの年齢の頃に、小さな子が先生〜! って寄って来てくれて、すごくかわいくって。“この子のために、これも教えてあげよう”って。教えへの興味は10代の頃からありました。」
 
添田「それはいいですね。生徒さんがたくさんいて、子どもがたくさんがいるみたいではないですか?」
 
金澤先生「みんな子どもですよね。」
 
添田「親としても、我が子の子育てをしながら学ぶことがありますよね。そんな感じでしょうか?」
 
金澤先生「そう考えるとたくさん子どもがいすぎて大変ですけれど(笑)生徒さんも親御さんにも恵まれてありがたいです。本当に感謝ですね。」
 
 

 
 
金澤先生、ありがとうございました。生徒さんや親御さんとの関わり方一つひとつを伺うたびに先生らしさが伝わってきました。
先生と生徒、先生と親御さん、そして親御さんと生徒さん(お子さん)、三位一体の関係性がバレエ経験をその後の進路にも生かすことにつながります。
インタビュー中、終始「ありがたい」「本当に恵まれている」という感謝の言葉を繰り返しお話しされていたことが強く印象に残りました。
 
先生のお話が、どなたかのヒントになれば嬉しいです。
 
 

編集後記

 
金澤先生との出会いは数年前になります。
バレエを学ぶ中で人として生きていく中で必要な力がつく。
社会に通ずる力がつく指導を実践されていらっしゃる実例として紹介したく今回お話を伺いました。
 
今までご紹介して参りました記事にもありますが、本気でバレエに取り組んできたことの「重み」は、本人や本人のすぐ側でサポートした経験のある人にしかわからないものです。
 
日常生活を除く全てを懸けるほどの熱量で取り組んできたことの先にある道。
気持ちを理解してもらい、安心して相談できる場所が必要と考え、余り取り上げられない実例紹介をし続け早5年以上が経ちました。
 
夢は目指す過程が大切で、その中で培われた力がその後のライフキャリアにつながっていきます。
そのキャリア形成に特化した場を作ってもうすぐ7年になります。
現在は理念に共感する仲間のプロとつながりを持ち、協力してサポートをしています。
今後も引き続き仲間を増やしながら、「バレエに真剣に取り組んできた若く優秀な人材」のキャリア形成、その後の社会での活躍を、バレエ親子のメンタルコーチ兼キャリアコーチの立場で応援してまいります。